海外BCL。
そこはまったく未開の領域でした。当たり前のことですが、日本語ではないので内容が全然理解できません。
その前にちょっと電波の特性について説明しておく必要がありそうですね。BCLというものにあまりなじみのない方もいらっしゃる可能性もあるので。
普段ラジオをそれほどお聴きにならない方でもFM、AMくらいはご存知だと思います。
ただ電波形式について語りだすといつまでたっても終わりませんし、ここでの問題は電波の飛距離ですので、その点だけに絞っての解説としますのでご了承ください。
ものすごく簡単に言うと、FMの飛距離は超短い。しかも昼も夜も関係なく。
AMの飛距離は中程度。それに加えて暗くなるに従って、遠距離の電波を拾う特性があります。
夜、ラジオを聞いていると中国語や韓国語が聞こえてくるのは、AM波にはこの特性があるからです。
もうひとつ、海外BCLには「短波」というファンには欠かせない領域があるのですが、ちょっとこれはわき道にそれるので今は後に回します。
前回のブログでも書きましたが、国内の全放送局が寝静まってからの数時間、恐怖の時間が支配します。いわゆるコリアンタイムですね。
ダイヤルをどこに合わせても、聞こえてくるのは「チョセヨチョセヨ」、「イムニダイムニダ」ばっかりです。(笑)
しかもその放送が、国内放送みたいに明瞭な音声ではなく、無音に近い雑音の中からかすかに聞こえてくるのです。鳥肌です。
僕はこの頃、毎日ラジオはつけっぱなしで寝ていました。オールナイトニッポンが大好きだったからですね。
笑福亭鶴光のサンスぺが一番好きで、ワクワクしながら聴いていました。120分テープに録音したりして。閑話休題。
だからこの恐怖の時間帯はできれば、眠ったままやり過ごせれば一番最高でした。目覚めたときに5時を過ぎている。最高です。
しかし運が悪く目が覚めてしまうと、もうだめでした。
ただ、怖い怖いといってもそれは雰囲気を僕が勝手に怖がっているというだけの話で、後になって考えればバカバカしかったな、って思うんだろうなって感じでした。
けど実は本当に怖い世界がBCLにもあったんです。
それは「暗号放送」、「乱数放送」と呼ばれるもので、日本に潜伏している北朝鮮の工作員に本国から放送された暗号を受信させ、任務を遂行させるというものでした。
1970年~1980年代は東西冷戦真っ只中の時代で、CIAとKGBの諜報合戦なんかは映画の題材としても無数に取り上げられていました。
もちろん日本だって西側諸国の一員として無関係ではいられません。北朝鮮による日本人拉致もその一つと言えます。
その拉致に大きな役割を果たしたのが「乱数放送」と言われています。仕組みは簡単です。
送信側は数字の羅列を読み上げます。これは部外者にとっては全く意味のない数字ですが、工作員は「乱数表」というものを持っています。
この乱数表がただの数字を極秘任務に「変換」するわけです。しかもラジオはIPアドレスと違って送信者を特定できません。
北朝鮮は一度、2000年くらいに乱数放送をやめたのですが、最近再開したそうです。揺れ動いてますね。
僕が最初、乱数放送を耳にしたのは全くの偶然です。
深夜、聴きたい放送がなくなり、適当にラジオのつまみを回していました。
すると、なにか発声練習をしているような、同じ単語を何回も繰り返しているような、女の人の声が聞こえてきました。
この時は、「乱数放送」なんて知りません。
僕は何か「韓国語講座」みたいなものなのかな?と思いました。
でも何か違う・・・。
雰囲気ってあるじゃないですか?
「韓国語講座」であれば、講師の「リピートアフターミー(笑)」みたいな相槌だとか。
そんなのがない!
一定の間隔で、際限なくぽつぽつと単語を喋っている。だんだんと怖くなってきました。
しばらく注意深く聴いていると、同じ単語を繰り返しているのではなく異なる一文字を延々と喋っていることもわかってきました。
その時はそれで終わりです。これが僕の「乱数放送」との出会いでした。
それが「乱数放送」だとわかったのはそれから2年くらい経ってからですけどね。
内容がスパイ向けの放送であるということが分かって聴くのと、分からないで聴くのとではモチベーションが全然違いました。(笑)
僕にとっては意味のない数字の羅列を聞きながら、「ああ!今誰かがこれを聞いて、人を拉致しようとしているのかな?」なんて考えると、自然に心臓がドキドキしてきます。
人が万引きした瞬間を偶然目撃してしまったかのような背徳(?)感。この放送を聴く時はそういう気持ちでしたね。