この「生きる」という作品は、間違いなく黒澤監督の三大名作の一つに入ります。
今は亡くなってしまわれましたが、昔タレントで逸見政孝さんという方がいらっしゃいました。
「クイズショウバイSHOWBY」、「平成教育委員会」等に出演され、温厚な人柄がみんなに愛されていました。
ガンで亡くなったのですが、この映画を何回もご覧になっていたようです。
多分この映画の主人公「渡辺寛治(名前の字が違っていたらすいません)」、と自分の境遇をだぶらせていたのでしょう。
この主人公は平凡な役所の管理職です。 毎日、退屈で平凡な人生を送っています。 僕の若い頃と同じです。(笑)
ところが、ある日この主人公が自分の体調に異変を感じ、病院に行ったところから人生が大きく変わり始めるのです。
主人公は自分がガンになっていて、余命いくばくもないことが分かり絶望します。
最初はただ絶望だけで、どうしていいかわからない主人公。それまで皆勤だった役所も無断欠勤が続き、街を目的もなくさまよいます。
睡眠薬で自殺を試みたり、酒で一時的にごまかそうとジタバタ必死にもがく主人公。でも最後に主人公は気付くんですね。
「自分の生きた証を残すことが生きるということ」と。
この主人公は「市民課」という役所の課長でしたが、それまでは市民の陳情もまともに取り合わず、ほかの部署にたらい回しにしていました。
今の役所でこんな仕事は即NGでしょうけど、当時はこれが普通だったのかもしれませんね。
でもいまの課長は生まれ変わっています。その課長の目に市民の陳情の一つが目に入ります。それは「児童公園」を作ってほしいというものでした。
課長はこれを自分の生涯の仕事に設定します。 当然、熱の入れ方も半端じゃありませんが、周りはそれを理解しません。
そりゃそうです。 誰も課長がガンであることは知りません。 しかもこの課長の役所は「市民の陳情はたらい回す」という不文律があります。
そんな中、課長はまさに孤軍奮闘です。 様々な悪意や嫌がらせにも負けずに、自身の仕事を成し遂げていきます。
そしてついに、主人公は児童公園を作ったのです。 この時の主人公にとっては周りの評価なんかきっとどうでも良かったに違いありません。
僕は比較的鈍感な人間なのですが、この時の主人公の気持ちだけは正確に理解できます。
「生きた証を残した。無駄な人生じゃなかった。嬉しい。」という気持ちでいっぱいだったことでしょう。
こんな映画を20代のうちに観れたことは、僕にとってはいい財産になっています。 あまり学習はされてないですけど。(笑)
「人生を学べる映画」ってあまり多くはありません。 この作品はそんな数少ない作品の一つであるのは間違いありません。